2011年10月12日水曜日

「ミログ」に関わる一連の騒動について思うこと


Android スマートフォンでのアプリケーションのインストール情報や使用履歴を、無断で送信するということで「ミログ」の「app.tv」や行動ターゲティング広告を提供するとしている「AppLog」SDKが大きな問題となっています。

アプリケーションの振舞いとしては「app.tv」が、そして開発者を巻き込んでしまいつつあるという意味で「AppLog」SDKが問題になっており、どちらも利用者の許諾をきちんとした形で取っていないか無断で送信するという振る舞いがあることが問題の核心です。

私自身、Android のアプリ開発者としてデベロッパー登録をしていますし、アプリケーションも Android マーケット経由でリリースしており、また当然 1 ユーザでもあるのでこの問題は注目せざるをえない事柄です。折しも日本Androidの会の定例会で渦中のミログCEOが登壇し、UStream にて配信され、その録画が公開されているということなので、視聴してみました。


Video streaming by Ustream

このプレゼン動画を見て、仮に技術的な部分が理解できなくとも皆さんがどう感じたかという部分が一連の問題の核心であるのですが(非常に失礼な言い方ですが私には「ネットワークビジネスのできそこないプレゼン」のように見えました)、私の感覚では
  • ユーザの立場に立てば、ずさんな許諾のとりかたをしている点で問題外
  • 開発者の立場に立てば、これを採用することによって信用を失ってしまうので問題外
だというのが率直な印象です。ユーザの立場に立った際の問題点についてはすでに多くの方がさまざまなサイトで検証されているので触れませんが、開発者として見た場合でも、「AppLog」SDKはとても採用できないところがあるので、書いてみたいと思います。

「マルウェアを配布してしまう」ということ


まず大きな問題にしなければならないのが、このSDKを使うことでユーザさんの端末を「マルウェア端末」にしてしまう可能性が強いということです。プレゼン動画の中ではしきりに「バッテリの消費が...」という言葉が繰り返されていましたが、バッテリどころのさわぎではなくマルウェア端末にしてしまうというのは大きな問題です。

Android アプリケーションを開発して Android マーケットで公開し、それなりに使ってもらおうと努力した経験のある方は少なくないかと思いますが、インストールして使ってもらうというのはそれが無料アプリであっても大変なことで、こういう経験を通じて「アプリ開発者の『顧客』はユーザさんだ」ということを実感するわけですが、苦労してアピールして使ってもらえたユーザさんの信頼をいっぺんに崩してしまうだけの破壊力を持ったものがこの「AppLog」SDKだといわざるを得ない側面があります。

このような事例は実は今初めて起こったことではなくて、Windows の「オンラインソフトウェア」界隈でも、無料で提供されるソフトウェアに「JWord」というスパイウェアが同梱され多くのユーザを悩ますことがありましたが、「AppLog」SDKを使うことは「JWord」を同梱することかそれ以上にユーザの顰蹙を買い、開発者の信頼を失墜させるようなものであるということができると思います。

「ミログ」という会社の経済的信用


さらに非常に穿った見方かもしれませんが、「ミログ」という会社にどこまで経済的信用をおけるかということも重要な視点かと思います。

この「AppLog」SDKではどのような形態になっているのかはサインアップしていない私は分かりませんが、開発者が得る報酬は一定額に達するまで出金できないか手数料で損をしてしまうというのが世の常です。そして未出金の報酬は開発者にとっては債権ということになりますが、この債権には当然のことながら発行元の「ミログ」の信用リスクが存在します。また多くの開発者が参加したとすると最低出金額以下のものについては退蔵されたままサービスが終了してしまうという可能性も考えなければなりません。ちょっと古い記事ですが、Techcrunch に

[jp]ミログが3.1億円をオプト、リクルートから調達、あわせてAndroid向けリワード広告への参入も
(http://jp.techcrunch.com)

という記事が掲載されていますが、これを読む限りでは「開発者の金庫番」としては「ミログ」はいささか役不足なのがおわかりいただけるでしょう。

実際のところ私はアプリ内広告には AdMob ( 2009年に Google が買収 ) を使っていますが、元締めだけあって「ミログ」とは経済的、倫理的な部分双方で安定感が違うように思います。

ユーザコミュニティに頼らず皆さん自身が判断を


一方、一部 Twitter 方面では今回の日本Androidの会の定例会に「ミログ」CEOに登壇させたことについて是非の声が上がっていますが、実際「日本Androidの会」は「Androidに興味を持つ人が集まるユーザーコミュニティ」という目的の団体ではありますが、かなり「ゆるい」つながりをもつコミュニティで、今回のような事態に対して「公式な見解」を出すような仕組みはありません。入会にお金が必要なわけでも血判状に押印するわけでもない単なるコミュニティにすぎませんので、是は是、非は非でそれぞれの事柄について開発者やユーザそれぞれの立場で判断してもらうしかない部分があります。

私の個人的な意見では、今回の件で Android 全体が脆弱なプラットホームだと認識されるのは心苦しいものがある一方で、このような「邪悪」なものが早期に排除される現状はある意味健全な部分があるのではないかと思います。なによりこういったモノに加担してしまった開発者が淘汰され、えげつないことをやるライバルが減るというのは正直非常に好ましく感じます。

ある意味今回の騒動は、健全なアプリが正当な評価を得るようになるための試練のように思います。