コンピュータの楽しさを Ubuntu を通じて思い出させてくれる、21世紀のIT啓蒙コミック
IT業界は変化の激しい業界だと本当に思う。
少し過去を振り返ってみても、軽蔑されがちだったパソコン通信時代、Windows 95 とインターネットブーム、ライブドア事件、過酷化するエンジニアの労働環境、モバイルSNSの成長と行きすぎた射幸性の追求... と、IT技術の発展・変化と同じくらいビジネス環境や社会の評価という点で毀誉褒貶の激しい分野であることは間違いないだろう。
そのような分野になぜ関心を持ち、なぜ職業として選択したのかということを思い起こしてみると、コンピュータを使うことに伴う、ちょっとした苦労とそれを乗り越えることによる楽しさ、カタルシス、そういったものが原動力であったのではなかったかと思う。
私がコンピュータに興味を持ち始めた1980 年代は、今に比べて性能、ソフトウェア、通信環境、どれひとつとっても非常に貧弱だったが、それでもコンピュータが持つ可能性については繰り返し啓蒙がされ、教育的な要素とホビー要素のバランスのとれた、優良な雑誌や書籍が数多く出版されていた。
1980 年代のそういった雰囲気を表現するのは非常に難しいが、非常に影響力があった、すがやみつる先生のコミックで、Microsoft の ビル・ゲイツ を題材にしたものが、すがやみつる先生ご自身のblogで公開されていているので、その時代を過ごしていない方は、当時の雰囲気だけでも読み取っていただきたい。
・マンガ『ビル・ゲイツ物語』~ すがやみつるblog
http://sugaya.otaden.jp/e306.html
こんな環境の中で、コンピュータの可能性や楽しさを見い出し、やがて職業としてIT業界を選択したというエンジニアは私と同じような世代に多く存在する一方で、日々の業務に追われて本来の楽しさを忘れてしまっている人も少なくないだろう。
「うぶんちゅ!」は掲載母体の「Ubuntu Magazine Japan」の中で、その時々の Ubuntu の旬な話題を題材に楽しさを伝える位置づけで、毎号完結読み切り型のスタイルで連載されているが、今回の単行本化にあたっては、各エピソードをまとめるだけではなく、著者のコメンタリー的な4コマや描きおろしの新エピソード、サービス(?)エピソードが追加されており、毎号「Ubuntu Magazine Japan」を読んでいる読者も十分に楽しめる構成になっている。
劇中においても単に学園の中でドタバタしているだけではなく、各エピソードのクライマックスで発揮される三者三様の「システム管理同好会」メンバーのスキルや問題解決(?)能力は読んでいて非常に爽快だ。
若い方であれば「県立壱宮高校」の登場人物に自分をなぞらえて、また私のように必ずしも若くない方は若かりし時の自分に登場人物をなぞらえ、現状に追われるだけではなく未来を見据え、「あかね」、「マサト」、「里沙」の「システム管理同好会」メンバー ( もしかしたら、あなた自身かもしれない!! ) が将来どのようなエンジニアになるのだろうかという観点で、この「うぶんちゅ!」を読んでみると、また違った味わいがあるのではないだろうか。
また、単行本を読んで気に入ったならば、著者のWebページで公開されている本編や掲載母体である「Ubuntu Magazine Japan」もあわせて読み、実際に Ubuntu を動かして、自身の手で楽しさを追体験することができれば非常に実り多いものとなるだろう。
(株式会社アスキー・メディアワークス 佐藤 様よりご献本いただきました。ありがとうございました。)