2011年1月25日火曜日

OpenOffice.org とベンダ・ロックイン

一応地元県のお話なのではありますが、「山形県がOpenOffice.orgを県庁の全パソコンに導入へ、都道府県で初 (ITPro)」というニュースが飛び込んできました ( 業者側のニュースリリースはこちら ) 。

この話題は昨年に導入検討開始時に一度ニュースになりそれなりに注目を集めた話ではあるのですが、今回の導入決定についてはさらに注目されない、なかばスルーされているニュースとなっているように見えます。

ITPro の記事を見るとメインストリームサポートがすでに終わった Windows XP を主に使っていてそういった機器で今後 OpenOffice.org を導入していくとのことです。とは言っても Windows の系譜で言えば、すでに 2 世代前の OS ということになり、全ての PC が Windows XP を積んでいるわけではないと考えられます。ちょっと穿った見方かもしれませんが、比較的最近導入したものについてはITproの記事で言うところの
...外部の組織向けにMicrosoft Officeのファイルを作成する必要があるパソコンや、マクロを利用しているパソコンなどについては、Microsoft Officeを継続利用する。
ということにして、サポートが終わってしまいそうなものについて OpenOffice.org を導入して延命しようというプランのようにも見えます。地方公共団体の財政が押しなべて厳しいことは今に言われたことではないのですが、今回のように「ワーキンググループ」なるものを作って大仰に検証までするべきものであったのかどうかというのは疑問に思います。

MS Office を使い始めるときには「ワーキンググループ」を作って検討していたのか

自治体の現場に PC が導入されだしたのはそれほど最近の話ということではないのですが、職員全員にいきわたるほどの勢いで導入されだしたのは、いわいる e-Japan 戦略の時代 ( 2001年頃~ ) だったように記憶しております。それ以前に導入されたものはインターネット用の PC であったり、事務の効率化を狙って導入したもので、オフィススイートは 一太郎 と Lotus-123 の組み合わせであったり MS Office だったりと統一性がなく、e-Japan 戦略の波の中で「なんとなく世界標準だから」という理由で MS Office が普及していった流れがあったように思います。その当時はとにかく PC を使うことが目的で今回の山形県のように「導入の是非を検討するワーキンググループ」などを立ち上げて検討を行った団体があったようには記憶していません。

また、サポートされなくなりそうなソフトウェアがあるけども予算がないので無償のものに置き換えるという戦略であれば、選択肢などないに等しいわけですから「無償ソフトウェア『導入の』是非」を検討するのではなく、「無償ソフトウェア導入の『手法』」を検討しないといけないことは明白です。あくまで大義名分を通したい部分があるのは心情として理解できなくもないのですが、そこまで大仰な舞台装置を作られても正直醒めてみてしまうということもあるように思います。

OpenOffice.org を使ったとしても依然としてベンダ・ロックインの呪縛からは逃れていない

もう一つ重要なことは、昨年 Sun が Oracle に買収されてしまったことで、 OpenOffice.org は Oracle の持ち物になってしまい、 OpenOffice.org の将来が以前よりも流動的になってしまった事情が出てきたということに対して何の警戒も持っていないということだと思います。旧 Sun のソフトウェア製品の中で、オープンソース界隈で特に大きな影響があるのは Java, OpenOffice.org, (Open)Solaris の 3つですが、この3つの製品すべてにおいて昨年の間に製品の将来が直接左右されるような Oracle による方針転換やそれに対抗する動きが出てきて、「将来にわたって無償で(比較的)品質の高いソフトウェアが継続的に利用できる」かどうかなど誰にも予測できない事態となっています。

OpenOffice.org についていえば、さらなる「自由さ」を求めて枝分(フォーク)してしまった LibreOffice の存在があります。現在のところ内容的にはこの 2つのソフトウェアはほぼ同じものであるといえますが、今後これがどういった差がでてくるのか来ないのか、 有力 Linux ディストリビューションがどちらを採用するのかというのは流動的な側面が多く、今の段階でどちらかを選択することを宣言するというのは正直情勢に疎いのではないかと思わざるを得ない部分があるのではないでしょうか。

またそもそもの話として、今回の Oracle による Sun の買収のような外的要因で、盤石に見えていたオープンソースプロジェクトがいきなり存続の危機に直面してしまうということも起こりうることで、ユーザやプロジェクトのサポータはこういった要因に対してほぼ無力だということも知られるようになりました ( その最たる例が OpenSolaris であると言えましょう ) 。この辺を突き詰めていくと、オープンソースソフトウェアというのは私企業の持ち物であるべきなのか、それとも公共財であるべきなのかという根本的なところに行き当たってしまうわけですが、 本気で「ベンダ・ロックインからの解放」ということを口にするのであれば公共財としての投資を行う必要がどうしても出てくるのではないかとこういうことになってしまうのです。このことについては OpenOffice.org の日本のコミュニティのリーダー氏がかなりキツイ口調で ( その攻撃的な態度はいかがなものかとは思いますがそれはさておいて ) ことあるごとに口にしていることであったりもします。

企業がかかわりを持つ限り程度の大小はあれどもベンダ・ロックインにつながる要素が発生しますし、逆に企業色を完全に排した場合にはコミュニティそのものの継続性が脆弱になってしまうというジレンマがオープンソースプロジェクトに対してつきまとっているといえることができるでしょう。

「無償で便利そうだから」安易に飛びつくことの危険

OpenOffice.org に限った話ではないのですが、このようなオープンソースプロジェクトにはプロジェクトの数だけその背景があり、単に「無償で便利そうだ」ということだけで安易に飛びつくと Oracle+Sun のプロダクトのように外的要因による濁流に巻き込まれてしまい、気が付いたら想定外の事態となってしまうという危険が ( 程度の多少はあれ ) 存在します。「誰かが無償で出してくれるから」それに乗っていくだけではなく、そのプロジェクトがどのような意義を持ちどういった影響をもたらすのか、またプロジェクトに対してどのようにかかわっていけばよいのかということをよく吟味する必要があるのではないでしょうか。

ここ最近の状況を見ると RedHat Enterprise Linux 代替の無償 OS である CentOS について、最新版の開発が難航しているという報せもあります。何が盤石で何が危ういのか、危ういなら危ういなりにどのようなコミットをしてくのかそういったことを考えないとオープンソースソフトウェアを使っていくのは難しいのではないでしょうか。